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理事長からのごあいさつ

健康長寿社会に貢献する新しい栄養学の発展を目差して

食物を摂取した時には様々な生体反応が観察されます。この反応を生理学的、生化学的な側面からとらえるとともに遺伝子発現の面からもとらえることが必要であります。食物あるいは食物成分を摂取すると、それに反応して起こる遺伝子発現量は個人によって違いがあります。遺伝子の塩基配列に個人差があり、ある特定遺伝子に一定の割合で変異が存在し、変異のタイプにより食事に対する反応に違いが生じることが知られております。また、胎児期、乳児期、小児期からの食習慣は遺伝子配列に変異がなくても遺伝子発現の個人差を生み出す要因ともなっており、ニュートリエピジェネティクスとして研究が進められています。

ヒトの遺伝子構造が解明され、食物成分に対する反応はニュートリゲノミックスとして発展しております。これらの研究結果を鑑みたとき、これからは食と健康に関する考え方を変えていかなければならないと思います。食物を摂取した時に起こる生理・生化学的反応は、食物成分が消化・吸収されて、ある濃度以上になると反応が現われます。しかし、分子栄養学の観点からみると、食物成分は消化・吸収されなくても生体反応を起こすことも見逃せないことになります。難消化性の食物成分も生体反応を引き起こす事実はよく観察されることであります。

健常者、疾病罹患者、その境界にある者は、一定の食物を摂取した場合の生体反応に違いが認められることがあります。個人に適した栄養を考える場合には、食物成分の作用を理解して食物がもっている様々な機能を適切に組み合わせて利用していくことが必要であります。そこにサプリメントを組み入れていくことも良いと考えます。

生理学的な視点から食物の消化を考えた時、食物を口から摂取して消化管壁を通過可能な状態まで変化させるということになります。消化に伴って人体外部の存在である食物が消化管壁を通過して体内に入り代謝され、最後には老廃物として対外に排出されます。

食物が消化吸収されたあとは、栄養素の量と種類の問題で食物の生理学的作用を論じることができます。食事から摂取された栄養素は、口腔内に摂取された量と、消化管から体内に吸収された量との違いに関しても考慮すべきでありますが、消化管内での生理作用も無視できません。特に非栄養素栄養成分は消化管内での役割が意味を持ってくることになります。

しかし、口に入る入口の外側ですでに食物の選択がなされており、われわれが選択しているのは栄養素ではなく食品であり、料理であります。食物を摂取して消化管に送り込むか、どうかを選択する要因として栄養学的要因と同時に文化的、及び社会的要因や個人的嗜好と言った要因も強く影響することを考えなければなりません。食物の色や外観、料理法、匂いなど視覚や嗅覚による選択が働き、また口腔内での味覚や温度などによって、旨いか、まずいかが判断され、食欲に影響し食道以下の消化器官に送り込む量に関係してきます。

これらの文化的、社会的な食物選択と感覚器官による判断は、長い間の食慣習を通して脳=中枢神経系に刷り込まれた嗜好性において処理されます。広い意味での情報が関与してきます。われわれは、栄養素を食べているのではないし、モノとしての食物だけを食べているのでもありません。情報もいっしょに食べているのであります。

これまでの栄養学は、生理学的な人間のメカニズムと食品の科学的組成とを直結した理論に支えられているようにみえます。栄養学の実践面において大脳を含めた学問に脱皮することが必要であると考えます。

栄養学において、ヒトの精神的あるいは心の問題は決して疎かにはできないであろうと思います。食物と心の健康についての研究は栄養学にとって必要であると考えます。
人間栄養学の推進ということが言われておりますが、食物と心の健康を科学として取り込んだ栄養学を指していると思います。

食物の選択から口腔内での第1相、消化管内での第2相、生体内での第3相と言った3つの相の生理学的作用は生体システムとしてお互いに関係し合っております。
しかし、このようなシステム体系は極めて複雑でその全貌を明らかにするためには極めて長期の研究が必要となります。
このような視点に立った場合、食の科学を食の本質を原点とする社会(=生活者)に良く理解される公共性を持った科学体系にすることが最も重要な問題になってきております。
実証とともに予測をも尊ぶ価値観を重視する「評価科学=レギュラトリーサイエンス」をこうした時代の要請に応えることが出来る新しい科学論として挙げることができます。
レギュラトリーサイエンスを実践するためには、これまで、ともすると別々に研究されてきた第1機能;栄養・第2機能;嗜好・第3機能;生理学的作用のカテゴリー体系を脱構築した食環境に適応出来る人間に基盤を置いた「新しい食の科学」を構築することが望まれます。
そのためには、(1) 食と健康の科学を構成する1分野としての栄養学に対するこれまでの固定観念から脱却し、(2) 食と健康の科学体系全般の基盤となすと言う広角的視点から我が国の栄養学を捉え直し、栄養学の基盤をもっと強固なものとし、(3) 栄養学の学問としての地位を時代の要請に応えるように魅力溢れるレベルにまで早急に高めなければなりません。
今の延長線上では、食の原点を基軸とする食と健康の科学の将来は見えてきません。現場から遊離した食と健康の科学の現状を直視し、社会に根付いた食環境に科学のメスを入れ、生活者にも受容してもらえる分かり易い食と健康の科学体系を構築し、即実施しなければなりません。
科学的合理性と社会的合理性を統合した『新しい栄養学=人間栄養学』を基盤とする次世代に相応しい食と健康の科学体系を構築すると言う視点に立って産・学・官・民が協調出来る体制を早急に構築することが望まれます。

このような一連の視点に立ってNPO法人21世紀の食と健康文化会議の活動を行っていきたいと考えております。

NPO法人 21世紀の食と健康文化会議
理事長 板倉 弘重

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